ある夏の夜、「カメの産卵を見に行かない?」と誘われ、
和歌山の白浜に行きました。
もう20年前くらいのことです。
当時、大学寮に住んでいました。
そこは大学院生用の寮で、医学部や薬学部、理学部など、
いろんな分野を研究している人たちがいました。
学部を卒業した直後だったこともあり、まだ学生気分は抜けていません。
「この夏、どうしようかなー」と思っていたら、寮の談話室で生物学
(動物行動学)を研究している寮生の先輩から誘われ、
ウミガメの産卵調査のボランティアに参加したのでした。
20人くらいのチームでした。
目的地は和歌山県の紀伊白浜です。
「白浜」の名の通り浜はどこまでも白く、海は透き通るような青色で、
心を一気に晴れわたらせてくれました。
専門知識もない文系の自分ができることと言ったら、もっぱら雑用。
自分に課せられた使命は、「夜のパトロール」です。
1時間に1回、夜の浜辺を交替で見回り続け、ウミガメがどこで上陸、
産卵しているか、無線を通じて報告する作業です。
夜「上陸」するカメは、朝日とは逆、すなわち暗いはずの陸地を目指します
(光があると、どんなに近づいていても上陸せず、海の中で卵を放出することもあるようです)。
そのため、ライトもつけずに、物寂しげな夜の波打ち際を歩き続けます。
なぜ波打ち際を歩くのか。それは、カメの足跡を発見するためです。
キャタピラのような足跡をたどっていくと、目指す産卵現場に遭遇できます。
雨の日は大変です。川を渡る際、腰まで水に浸かってしまうのです。
シバ:「ポイントAにカメが上陸中。タグ番号は……番」
(以前に調査したことのあるカメにはタグがついています)
本部:「了解。すぐ行きますからそこにいて下さい」
こうして産卵するカメを見守ります。
彼女たちは、のそのそと器用に穴を掘っていきます。
後ろ足はまるでスコップのようです。
テレビで見た人もいるかもしれませんが、目に涙を浮かべ、
ポロポロっと乳白色の卵を生んでいきます。
何度見ても胸が踊りました。
なぜ目に涙を浮かべるのか、それは「目の乾燥を防ぐため」です。
まばたきができないカメたちは、陸に上がれば目が乾燥してしまいます。
それを防ぐには、涙を流すしかないのです。
動物の感動的なシーンにも、論理的な根拠があるなんて深イイ。。。
この話には、1時間では語りつくせない体験談もあります。
リクエストがあれば、そのうち掲載します。
日本のウミガメ事情にはじまり、カメの肺活量、
GPSを使ったカメの遊泳調査など、ネタはいろいろあります。
しば